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珍文感文 #611/1/2022 ■森下 夢の島の二階で、ギターを弾きながら うたをうたってます。 頭がおかしいと思われがちですが、 人情家。 活字中毒見習い。純文学フェチ。 ライトノベルフェチ。 読みもしない大量の本に囲まれた 生活を亀とたぬきと共に送る。 春光のみぎり、梅や桜の蕾も膨らみかけてきました。 こんな春うららな日に、もってこいのハートフルな 本をここにご紹介したいと思います。 といっても、読了したてのほやほや。 湯気がまだ冷めてない、煮えた脳で書き殴ってます。 この作品が持つ、圧倒的な熱量を孕んだ、生馬の目を 抜くような群像劇のパワーを伝えられるか、でっかいクエスチョンマークです。 是は不可知にして未知。 ですが、風呂場やトイレ、寝室、果ては休憩中の車の中。 起床して歯磨きしながら‥本が手に吸い付いて 離れないこの吸引力は、まさしく徹夜本の名を冠するに ふさわしい名本であることには、一切の疑いの余地はありません。 もう寝なきゃ‥でも気になる。続きが読みたい。寝たい。苦しい。 painpainpain‥そう、徹夜本は最高の読書体験は 多幸感と共に得られますが、同時に苦しみも味わうものです。 前置きが長くなりましたが、 本日、ご紹介するのは こちら。 【血と骨】 作・梁 石日(ヤン・ソギル、양석일、1936年8月13日 - ) 『血』と『骨』。ブラッドボーン。 飾りはゼロ。それだけ。シンプルイズベスト。 なんと本質的で、異様なタイトルだろうか。 さらに、この禍々しさとある種の崇高さを感じるカバー絵。 例えようもない、不穏な空気が漂ってくるよう。 何故か気になる‥なんなんこれ‥訳のわからんきもち。 なにかしら引っ掛かったあなた。正解です。 1998年2月10日初版。 上下巻でAmazonにもありますね。 ※ビートたけし主演の映画版も出ているようですが、未見です。 改行なし・ぎっしり二段積み・500頁超えの大長編になります。 一段落が20数ページの中に凝縮されているので、 それぞれの生き様が生々しく、説明なく突き刺さってきます、 いや、突き刺さり続ける。痛い痛い遺体。読んでるだけなのに。 ではなぜ、この本はとてつも無い大傑作であるか。 そこを拙いながらも、ご説明したいと思います。 おおまかなあらすじとしては、『金俊平(きんしゅんぺい)』 というひとりの在日朝鮮人の常軌を逸した人生の記録または、 日本での生活、彼を取り巻く人間たち、また彼の一族を 中心とした混沌とした一代記、とゆうことになるかと思います。 ですが、単なる思い出話的なのほほんとした展開は、この男の人生の辞書にはありません。皆無。『今』だけをなりふり構わず生き抜く。 HIGHSPEEDに重なるHIGHSPEEDな文体の速度。 舞城王太郎とは別種ですが、読みやすさが異常です。 改行なしの一行、そのまた一行の間に、 男たち、女たちの人生やそれを形作る暮らしのひとひらが、 なにげなく、異常な密度を持った行の間に間に浮かんでは 沈んでいきます。 途方もない文字列の彼方に浮かんでは消えていくのは 『たしかにそこに居たひとたち』の足掻き、苦闘、煩悶です。 荒波のように、寄せては繰り返してゆく人々の荒れ狂う情動、 迷妄追求を経て年代は進み、年代は遡り、 殺し殺され、騙し騙され、 奪い奪われ、呪い呪われ、 誘い誘われ、生まれ死に失せ、 またまたぐるぐるぐるぐる、 名もないエピソードとして生まれ変わり提示 されます。どや、わし、こう生きたで。どない思う? そのエピソードのひとつひとつが目を疑うような凄惨さや 生々しい血や肉のにおいに満ちています。 ですが、ナレーション的な、語り部により どこまでも淡々とした口調で語られていくので、 するするするする、気付かないうちに 凄い奇妙なものを知らず知らずのうちに 食べさせられている感覚に陥ります。 気づいたら、訳の分からない感覚で腹が膨れているような。 それも、腹が膨れていてもお構いなしに次々と劇薬級の ドラマの断片を流し込まれ続けるのですから、途中から麻痺した ように脳が痺れていくのがわかります。 では、なぜ倫理観が著しく欠如していたり、歪んだ性質を持つ人物たち、 それらを魅力的に感じてしまうのか。 ひとつに、金俊平の性格を語る上で『迷わない』とゆうところがあります。 『人の生き死にには、立派な理由などない』とゆう信条を持っているこの 男、その徹底した生き様にはある種の潔さをも感じます。 だから、簡単に人を裏切るし、人に期待しないし、人を信じません。 マクドナルドのポテトを慌てて食べて、口の中を火傷するような わたしには、到底真似ができないスタイルですし、だからこそ憧れるのかも しれません。 さて、その内容に触れましょう。 この物語の主人公 金俊平は、一筋縄ではいかない『超弩級』の人物なんです。 なにがどう凄いのか。 まずは見た目、その見た目が人に脅威を与えずにはいない風体なのです。 頑健に鍛え上げられた巌のような肉体には、おびただしい数の 生々しい傷がついています。 血と暴力の匂いしかしない歴史の中に、金俊平は生きてきました。 金俊平には、こむづかしい理屈や理論は一切通じませんし、 必要ともしていません。 怪物。首魁。ならずもの。 彼を言い当てる言葉は種々ありますが、あなたが想像する 理が通じない人間を100倍濃縮した感じの人物、それが 彼に近いかもしれません。 疑り深く、理屈が通じない。 他人や家族への愛情や思い遣りがなく、 常に利害関係でしか人と関係性を結べない。 蛇のような執念深さと、疑り深さと暴力暴力暴力。 物語の主演とくれば、どこか憎めない面もあるかと思いますが この男にはそれがありません。全く感情移入できません。 動物のように、奔放で孤独な在日朝鮮人。文字の読み書きもできず、 ひとと腹を割って話すこともなく、胸のうちは誰にも語らない。 彼は、誰のことも信じていない、いや、信じることができない、 孤独のなかの孤独な男。それが金俊平なのです。 その金俊平を中心として、物語は進んでいきます。 彼が信じているのは、暴力です。暴力でのみ、人と繋がってきたのです。 読後に得た情報ですが、この金俊平は作者の梁 石日の実の父親がモデルになっているそうです。壮絶な家庭環境と生活の柄が、痛ましく想像されます。 ですが、その父親抜きにはこのニンゲンドラマはなし得なかった と思います。淡々としたドキュメント感が生々しく全編に通じて息づいているのに 納得の背景です。 とりとめがなくなってきましたし、この本をうまく紹介するのは 不可能と感じてきました。体験してもらうほか、ないと 思います。 ここで、わたしが『血と骨』を読んで印象的だった文を 抜粋しまして、ここに掲示します。少しでも、作品世界の持つ 濃密なサグさや例えようもない、結晶化された美を感じてもらえたら これ幸いとしまして、本稿を閉じさせて頂きたいと思います。 金俊平の眼窩の中心の 黒い点の奥にもう一つの 目が光っているような 気がするのだった。 求めていながら 拒絶しているのだ。 それは恐ろしいほどの 孤独の世界に違いない。 ■マサカツ THE END ROLLS、難民ズでギター弾いたり歌ったりしてます。 ボンクラ青春小説が好物。 永遠のにわかSFファン。 自己啓発本は合法ドラッグ。用法用量を守って正しく楽しみましょう。 【猫のゆりかご / 著:カート・ヴォネガット 訳:伊藤典夫】 今回は『猫のゆりかご』カート・ヴォネガット著・伊藤典夫訳(早川書房)を紹介します! カート・ヴォネガットは1922生-2007没のアメリカ人作家です。 SF、ポストモダン文学作家とされてますが本人はなにかとレッテル付けられるのは嫌だったとか。 第二次世界大戦中に捕虜として囚われていたドイツ内で経験したドレスデン爆撃や母親の自殺が、絶望的かつシニカルなその作風に大きく影響したと言われています。 以前、そのドレスデン爆撃が反映されている『スローターハウス5』を読んでめちゃくちゃ面白くて、また久々に著作を読んでみようと思い、タイトルに惹かれて選んだのがこの『猫のゆりかご』です。 といっても猫はあまり出てこず、出てきてもちょっと切ないエピソードのみでした……(笑) 猫のゆりかごってあやとりの英語なんですね(Cat’s Cradle)。 ヴォネガットらしく、めちゃくちゃオリジナリティがあって、独特なユーモアセンスが面白おかしい、ほんとバカで荒唐無稽。まさに唯一無二な作品です。 読みようによってはちょっと難解で人を食ったような作品なんですが、でもそれがヴォネガット作品の良さなんじゃないでしょうか。 あらすじとしては、ドキュメント作家の主人公ジョーナが、広島に原爆が投下された日にその開発者は何をしていたかを取材しようとするところから始まり、科学者の子供たちを追ううちにサン・ロレンゾという南国の独裁国家に辿りつき、そこで世界の終わりを迎える、って感じです。 世界の破滅をもたらす化学物質にまつわる終末ものではあるんですが、やっぱりSFと言うより不条理コメディっぽさあります(笑) テーマとしては、執筆当時のキューバ危機・冷戦にともなう終末思想的な影響下で、宗教や化学に盲信する危うさ、人生の理不尽さとか人間のしょうもなさを皮肉たっぷりで描いているのかなと。 意味不明な単語や突飛な登場人物でわかりにくくなっているものの、実は意外とシンプルなのかな? 深く読み取れば、大きな運命的なもの、自由意志の有無な感じでしょうか。 物語のキーとなるのがボコノン教という宗教なんですけど、またこれがクッソ馬鹿っぽいです。 まあ「ボコノン」って言葉の響き自体からして馬鹿っぽいですもんね。 聖書的な「ボコノンの書」は教祖ボコノン自作のカリプソが書かれていたりして、いっしょに歌おうと信者に呼びかけているんですが 「ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイス ナイス、ナイス、ヴェリ・ナイスー」 とかそんなのばかり。 ヴォネガット独特な言葉遣いの真骨頂って感じです。 お互いの足の裏をくっつけ合うボコマルという儀式があったり、「無害な嘘を生きるよべにすれば、勇敢で親切で健康で幸福になれる」とか虚実ないまぜな教義だったり、無神論者のヴォネガットらしく、あらゆる宗教を茶化しにかかってます。 国のトップと宗教の教祖が結託しているあたりは、最近どっかで聞いた話な気も……。 登場人物も一癖ある人たちばかりで、かなり印象的です。 個人的に好きだったのは 『自分がいいことを言ったと思うと、きまって自分の尻をぎゅっとつかみ、 「そうだ、そうだ!」と叫ぶ』エレベーター係の老人です。 狂っていて皆に嫌われているようです(笑) と、ヘンテコな人たちがヘンテコな話しを紡いでいくのですが、タイトル『猫のゆりかご』あやとりのように、なにか形作ったとしても、実際にはなにも無く、一本の輪になった紐があるだけ、なのかもしれないです。 とても魅力のある「たわごと」なこの作品、めちゃくちゃ好きな一作になりました。 僕も今日からボコノン教の信者です!
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珍文感文 #55/3/2022 ■森下 夢の島の二階で、ギターを弾きながら うたをうたってます。 頭がおかしいと思われがちですが、 人情家。 活字中毒見習い。純文学フェチ。 ライトノベルフェチ。 読みもしない大量の本に囲まれた 生活を亀とたぬきと共に送る。 春風に運ばれてきた、雪解け水をください。 ご機嫌よう、ぼくです。 みなさんには、多面性はありますか? わたしはほしい、多面性が。 ミステリアスな神秘性。秘匿された、フシギ。 誰も開いたことがないフォルダ。気になりますよね。 今回、ご紹介したいと思ったのは日本の作家、赤松利市さん。 60歳を過ぎてから、住所不定無職状態で、ネットカフェに篭って 書き上げた『鯖』で鮮烈なデビュー。 『60歳、住所不定、無職。』 肩書きがもはや魅力的過ぎますよね。 それまで様々な仕事に就いてきたその経験と視点から 創られた作品群には、見るものを惹きつけてやまない魅力に溢れています。 2022年、現在、赤松さんは66歳。 ものすごいスピードで作品を描きまくってます。 そのどの作品を選んでも質も、取り上げるテーマ、内容も 肩書きに負けないような超絶に面白いものばかり。 ファンの中では、赤松利市作品には次の二種があるとされています。 『黒赤松』『白赤松』。 『黒赤松』は、人間のドス黒い欲望や葛藤、迷いが溢れてる ドラマノベル。 (『犬』『ボダ子』『鯖』『らんちう』などがこれに当たります) 『白赤松』は、意表を突くストーリーテリングの妙味が光る 優れたエンターテイメント文学。 『白赤松』とは果たして‥? 前置きが長くなりましたが、今回、紹介したいのは 赤松利市の『白赤松作品』である(ややこしいですね) 『白蟻女』です。 【白蟻女】 作:赤松利市 『白蟻女』には、表題作の『白蟻女』のほか50ページほどの短編『遺言』が 入っています。 『遺言』は亡くなる直前のひとりの老婆が、ボイスレコーダーに 吹き込む『遺言』を岡山弁で綴る名短編。 『そうきたかあ』と思わずニヤリとしちゃうやつです。 アダルトな寓話。こう解釈しているのですが、あながち遠くはない気が しています。 ぼくは、この作品、大好きですね。 さて、表題作となっている『白蟻女』。 ネーミングから、なにか強烈なおどろ感を覚えますが、 (例えるなら、江戸川乱歩の人間椅子とか、水木しげるの二口女とか) 異形の持つ禍々しさだけではない、とゆうか光の角度でカラーリングが 変わる、宝石みたいな、 読み進めるうちに徐々に見え方が変わってくる 不思議なタイトルなんです。 そして、ラストまで読んだとき『白蟻女』とゆう言葉に対してのイメージが 変わっている。これはちょっと得難い読書体験でした。 読みやすいですし、事実わたしは2時間ちょいで読み終えました。 味わい深い、余韻をもった素敵な作品だと感じた次第です。 物語は、亡夫の通夜をすごす妻の視点から始まります。 先程の短編、『遺言』もそうでしたが『死』をテーマのひとつとして 扱っているのがわかります。 『らんちう』に見られるような血生臭い感じの『死』ではありませんが 静かに『死』と『死』を取り巻く人々の情感が硬質な文体で綴られています。 (『らんちう』も、赤松利市を語る上で外せない名品です) さて、場面を戻します。逝去した夫のお通夜。 しめやかな空気。聖なる葬儀礼。 厳粛ながらも、生前の記憶を辿りながら涙をぬぐう 貞淑な雰囲気、妻。 妻は、亡夫の死に顔を穏やかに見つめながら、 これまで長年、連れ添ってきた日々を暖かく振り返ります。 50年、あなたにずっと惚れてきた‥いいですね、『白赤松』。 優しい。めっちゃ優しい。カフェオレみたい。 ハートウォーミングものかな‥と安心して読み進めていくと 現れます、白蟻女。 亡き夫の通夜の場面に、ふわっと。 彼女は50年前に夫と不倫関係にあった、キャバレーで働く女性でした。 何故、枕元に出たのか‥。彼女は『一緒になれないなら』と 白蟻駆除剤を呷って自害します。あろうことか、夫宅の玄関で。 だから『白蟻女』。急激なドス黒いエピソード。 一瞬にして次元が歪んだかと思いました。また、死ぬ描写が乾いていて えぐみがあるんだ〜。 ‥でも、ここからです。 彼女は言います、『思い出をめちゃめちゃにしてやる。』 思い出をめちゃめちゃにしてやる。 凄いパワーワード、パンチラインですね。白昼夢を見ていたと 思ったら、急に放り込まれたリアリズム。 不穏なセリフと共に、妻と白蟻女はこれまでの過去を巡っていく旅に出ます。 白蟻女は、意識の中に入り込むスタンド能力?みたいなものを持っている ようで、いとも簡単に妻の意識の中へ侵入します。 本来、その場にいないはずの白蟻女が妻の思い出のシーンに侵入。 そして、事実ではない言葉や行動を起こします。 ですが、すべては過ぎ去った過去。パスト。なのです。 過去は変えられません。 白蟻女の言行動は、一切の影響をおよぼしません。 『あなたがしたかったのは、こんなことなの?』妻は、白蟻女を 哀れに思います。そして、次には白蟻女にこんな願いを告げます。 あなたの思い出の中へ、連れて行って。(こうは言ってないですが) ここからの展開が、素晴らし過ぎて、マジで目が離せません‥。 どれだけ練りまくったら、こんな話の展開を考えつくんでしょうか? 赤松利市、やはりただものではありません。 これだけ多作ならひとつくらいは『ああ‥うん‥』となるような 作品が出来てもおかしくないんですが、赤松さんには それがありません。常に面白い。常に最高。 しかも、奇抜とか、イカれた展開、とかぶっ飛んでる、とかでは ないんですね。(もちろん狂気性はあります) この寓話感と、アダルトな匂いと、それでも人を信じたい 『人間讃歌』的な感覚が、ぐわーっと‥ あまり、細かく書くとネタバレになるので、このへんにしとき ます。 赤松利市さんは、影響を受けた作家にミヒャエル・エンデと車谷長吉を あげていますが(すごい二人)かくやという仕上がり。 ミヒャエル・エンデは、有名なところだと『モモ』『果てしない物語』などが あります。超絶最強なストーリーテラーです。 ちなみに、『果てしない物語』が赤松さんの人生のマイフェイバリットランキングを 常に独占しているそうです。 南米のガルシア・マルケスを筆頭とするマジック・リアリズムの匂いも感じますが 赤松利市作品は、もっとシンプル。シンプルだけど単純という訳ではありません。 意匠を凝らした複雑怪奇な文学迷宮、とかではなく もっとストレートに、人と人の本来持っているはずの『人間らしさ』的なものを 掘り下げて掘り下げて、結晶化させている、というようなそんな印象を 受けました。 『こうきたから、こうだろう』とゆうような読み手の予想を次々と 裏切ってくれます。 ここまで意表を突かれる作品というのも、そうはないと思います。 それなのに、読み終わったらこれしかない、とゆうような骨太な物語にも感じる 稀有な作品と思います。 とにかく、あっという間の150ページ。 内容は説明を求めていません。 とにかく、静かな、感動がありました。 これからも赤松利市作品からは、目が離せません。 そう思わせてくれる、超魅力的な二作でした。 ■マサカツ THE END ROLLS、難民ズでギター弾いたり歌ったりしてます。 ボンクラ青春小説が好物。 永遠のにわかSFファン。 自己啓発本は合法ドラッグ。用法用量を守って正しく楽しみましょう。 【ダーウィン事変 / 著:うめざわしゅん】 今回は漫画の紹介です! 書店員を中心とした各界の漫画好きが選ぶ「マンガ大賞」、2022年の大賞作品がこれ!! うめざわしゅん『ダーウィン事変』(月刊アフタヌーン/講談社)です。 マンガ大賞受賞のニュースを見て知り、検索したら第一話がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで共有されていて、 http://www.moae.jp/comic/darwinsincident/1 読んだら非常に面白くて先が気になりすぎてすぐ書店に向かい、発売中の3巻までをまとめ買いしました。 ~公式による作品紹介~ 『人間とそれ以外による世界大革命 私の友達は、半分ヒトで、半分チンパンジー。 テロ組織「動物解放同盟(ALA)」が生物化学研究所を襲撃した際、妊娠しているメスのチンパンジーが保護された。 彼女から生まれたのは、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーだった。 チャーリーは人間の両親のもとで15年育てられ、高校に入学することに。 そこでチャーリーは、頭脳明晰だが「陰キャ」と揶揄されるルーシーと出会う。』 いやー、 「ヒューマンジー」チャーリーはなぜ生まれたのか? テロ組織の本当の目的は何なのか? 色々気になってとても読み応えのあるサスペンス、ヒューマン(ヒューマンジー)ドラマです。 『ダーウィン事変』というタイトルのとおり進化論的なものが主なテーマだと思うんですが、つかみ的にヴィーガニズムや種差別を扱っていて、僕はまずそこでまんまと引き込まれました。 過激的な思想を持つ動物愛護団体・テロリストを描く一方、チャーリーの養父母などより一般的と思えるヴィーガンの考え方も提示されてて、読んでいて普通に共感しちゃった。 ヴィーガンプロパガンダになりかねない所なんですけど、嫌味のないギリギリをせめられているのではないでしょうか。 種差別のほかにも銃社会や宗教問題などシリアスな内容ではあるんですけど、漫画ならではのテンポ感でエキサイティングな印象を受けます。 アクションシーンのコマ割りとか、チャーリーの人並外れた身体能力を非常に上手く表現しているし、それでいて絵も繊細で魅力があり、話題性だけの作品ではないなと思いました。 なんとなく、同じアフタヌーン誌の『寄生獣』を思い出させるテーマだなと思っていたら「令和の寄生獣」と呼ぶ声もあるとか。 わかる。 浦沢直樹っぽい描画もあって、『マスターキートン』や『モンスター』大好きなので、凄く良いです。 舞台はアメリカの設定なんですけど、作者のうめざわしゅん氏は渡米経験はなく、映画や海外ドラマを参考にしているらしい。 なるほど。 序盤のステーキハウス爆破事件のシーン、どこかで見覚えあるなと思ったんですけど、映画『トゥモローワールド』の冒頭カフェ爆破シーンですわ。 『トゥモローワールド』も社会問題を起点として人類という種の生存を描いてますもんね。 おぉ、それっぽい。 ボス的な悪役マックスは『ブレイキングバッド』『ベターコールソウル』のグスタヴォ”ガス”フリングっぽさを感じました。 (ガスの冷酷で知的な邪悪っぷり、以降のエンタメ作品に与えた影響は少なくないかと。演じたエスポジートの功績は凄いと思います) 名悪役なくして名作なし、なので今後にも期待すべきキャラですね。 他にも保安官補は『スリービルボード』っぽいし、2巻には『エレファント』みたいなのもあるし『羊たちの沈黙』オマージュを感じたり、もちろん『猿の惑星』ぽさもあるし笑 自分、洋画海外ドラマ好きなんでめちゃくちゃ刺さりますね。 さらに、漫画はキャラクターに魅力があるかが一番重要だと思っているんですけど、この作品はそこがとても良くできているように感じます。 主人公チャーリーはズバ抜けた身体能力を持っていながら、考え方は理解されにくくみえてその実とても中庸。 極端な状況を描いているなかで、その中庸さが非常に魅力的に映ります。 この「極論を言ってるようでフラット」というのが、読んでいて自分の中でパラダイムシフトを起こしカタルシスを得られて気持ち良い。 ルーシーは読者的にもっとも感情移入しやすい立場のキャラクターでいて、芯が強く、とても生き生きしています。 前述したとおり悪役にも力があり、脇役も濃く仕上がってる。 チャーリーの養父母もとても人間味のある好印象なキャラ、なんですけど…… その二人が衝撃的な感じで3巻が終わっているんです! うわー! 早く続きを読みたい!! 4巻はそんな3巻を上回る衝撃的展開らしいので期待しまくってます。 『ダーウィン事変』最新刊2022年4月21日発売予定、この記事が世に出ている頃には読んでいるかもしれない……笑 楽しみすぎる!! -今回のゲスト- どうも、シチクです。 今回も俺じゃなくゲストにお願いしました。 今回はガチで結構忙しかった。本当は書きたい事たくさんあったけど。 なので、今回はスペシャルゲストです!!!この方!!! 「ビバ!サドンナ!!」と「おばけトンネル」でドラム叩いているイトウです。 最近は快活クラブ行って漫画読むのにハマっています。 今回紹介する漫画はおつじさん作の【いびってこない義母と義姉】です。 とある名家の庶子である美冶は、母の死をきっかけに本家である鴻蔵家に引き取られることになって、そこで待ち受けていたのは恐ろしい義母と義姉のはずがーーー!?(1巻裏のあらすじから引用) という感じで普通だったら美冶がいびられる展開なんですがこの漫画にはそういった辛い展開は皆無でハートフルです。幸せに満ちていてほんわかする話です。 主要人物は美冶、義姉のまりかとありさ、そして義母のてる。 キャラも可愛いしみんな良い人だから安心して読める。 時代背景が恐らく明治〜大正あたりなのか服や建物のデザインがレトロチックで好き。 今は2巻まで出ていてpixivコミックでで検索したら少し読めるのでよかったら読んでみてください。 ちなみにこの人が他に書いている「通りがかりにワンポイントしていくタイプのヤンキー」もおススメです。優しい気持ちになれる漫画です。これもpixivコミックで読めます。
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珍文感文 #44/10/2022 ■森下 夢の島の二階で、ギターを弾きながら うたをうたってます。 頭がおかしいと思われがちですが、 人情家。 活字中毒見習い。純文学フェチ。 ライトノベルフェチ。 読みもしない大量の本に囲まれた 生活を亀とたぬきと共に送る。 【シャイニング】 スティーブン・キング 著 スティーブン・キング。 スティーブン・キング。 声に出して読みたい名前ですね。 スティーブン・キングが 何故凄いのか。 何故有名なのか。 分析してみました。 ストーリーテリングの妙味や 魅力ある人物も、もちろん そうなんですが、 『尋常じゃない細やかな心理描写』 これが凄まじいです。マジで。 意識の流れが、焦りが、不安が、 恐怖が、余すことなく文章から 立ち上ってくるんですね。 舞台となるのは、雪に閉ざされた オーバールックホテル。 街から離れた巨大なホテル。 100年以上の歴史を持つホテル。 様々な黒い噂や心霊話がある、 かなりいわくつきのホテルです。 (ギャング同士の撃ち合いで死人が出た、風呂場に幽霊が出た…など) そこに、一冬のあいだ 管理人として雇われた、 ジャック一家が やってくる場面から、 物語は始まるんですね。 ここで、シャイニングの主要人物 たちであるジャック一家に ついて、簡単に紹介して みましょう。 ジャック。 元教師。家族想いの男。 今は芝居の本(戯曲)を執筆中。 過去に雑誌に掲載されたことが あり、将来は劇作家として 名を挙げたい野心がある。 元アルコール中毒。 癇癪持ちで、過去に息子の 腕を折ったことがある。 教師の仕事も同様に暴力事件を 起こしたことで辞職。 徐々に狂い始める。 ウェンディ。 ジャックの妻。 家族を愛している。 息子とジャックの関係性に嫉妬 している。『わたしなんか… わたしなんか…』 とものすごいコンプレックスの 持ち主。夫のアルコール中毒や 癇癪を恐れている。 ダニー。 ジャックとウェンディの息子。 5歳。いいこ。怖がり。 『輝き』と呼ばれる 超能力を持っている。 (この『輝き』がこの本の題名『シャイニング』になっている とゆうことに読み終わってから 気付きました。) 超能力。超超超超、超能力。 これがすごく物語の鍵になります。 人物紹介を、終わります。 上下巻で800ページ以上ありますが このシャイニングの主要人物は およそこの3人になります。 え?まじか、少なっ。 思いましたよね。わたしも そう思います。 だけど、この親子がちょいと 一癖も二癖もある親子でして… そこは、後に語るとしまして もう1人、大事な登場人物が います。 ハローランさん。 オーバールックホテルの料理人。 頼りになる男。 物語の割と初めの段階で フロリダへ行ってしまい、 姿を消すんですが、 このハローランさんが 凄く大事な役割を担います。 なぜか。 息子のダニーと同じく 『輝き』と呼ばれる、超能力を 持っているんですね。 ここで『輝き』と呼ばれる超能力 とは何か、ざっくり説明すると 『人の心の中が読める』 『人の感情や考えていることが 文字となって流れ込んでくる』 といった能力になります。 凄いですね。でも、怖。 ダニーはまだ小さいので 意識に流れ込んできた文字列を 読めないです。 読者としては、最高にドキドキ する展開になります。 例えば… レッドラム=人殺し という言葉をレッドドラム=赤い太鼓 と聞き間違えたりするあたりとか、 読者だけが物語の不穏さを先読み できる感じが、 最高に不気味でゾワゾワした 気持ちの悪い演出になっていると 思います。 今回、ちゃんと読むまでずっと 誤解してました、シャイニングを。 一冬を、ホテルで暮らす、 仲良し親子が優雅に暮らしていたら ホテルに住み着く幽霊と 遭遇して…みたいな話…だと ずっと思い込んでました、 シャイニング。 違いました。 すみません。そんな浅い話では ありませんでした。 物凄く丁寧で細かい心理が 積み重なってつくられた、 最高に面白い本でした。 幸せな家族と映っていた ジャック一家ですが、 様々な問題を抱えており すでに破綻寸前な状態でギリギリ 踏みとどまっているのが 徐々に読者に伝わって、不穏な 空気が流れてきます。 まず主役のひとり、 ジャックの元アルコール中毒で、 キレやすい、とゆうかなり 濃いめなキャラクターが割と 初期段階で明かされます。 ちょっとしたことで癇癪を 起こす親父。表向きには優しく 家族想いな親父面。 いやーキツいですね。 近くにいてほしくない人 ベスト3に入ります。 アルコール中毒、やばいやないか と感じながら読み進めますが ホテルには酒は置いていないので 口にすることは出来ません。 大丈夫。大丈夫やろ。 思いますよね。 でも、様々な環境因子が (冬の閉ざされたホテル、 街から離れた環境、 すれ違う妻との感情、 全然進まない戯曲…) 正常な神経を蝕みはじめます。 段々と、正気を失っていく 元アルコール中毒の親父。 五歳の怖がりで超能力がある 息子、弱々しく親父のゆうことを ずーっと聞いてきた妻。 雪に閉じこめられたホテル… なにも起きないはずはなく… というのがシャイニングの物語を 流れる主軸のひとつになると 思います。 そもそも正常な状態とは なんなのか。 具体的なトラブルが起きていない 状態が全て『正常』と 言い切るのはかなり危険な考え なのではないか… 具体的な『異常』な状態が 目に見えていなくても、 様々な感情が絶えず頭の中を 渦巻いており、混沌な状態に なっているのが『当たり前』 なのではないか… その渦巻いた感情の中から、 ピョコッと飛び出したものだけを 『異常』と切り捨てて、 その背景や環境に目を向けない のは『理解』から遠いのでは ないか… 『正常』『異常』とはなにか。 そんなテーマもあるように 読み取れたりしますが、 どうなんでしょうか。 幽霊も出るには出るんですが、 単純な幽霊屋敷物ではないと 思います。むしろ、人間3人が 主役の『人間意識の変化小説』 と考えます。 興味を持った方、ためしに 読んでみてください。 夜に読み始めると、面白すぎて 眠れなくなります…。 ■マサカツ THE END ROLLS、難民ズでギター弾いたり歌ったりしてます。 ボンクラ青春小説が好物。 永遠のにわかSFファン。 自己啓発本は合法ドラッグ。用法用量を守って正しく楽しみましょう。 【オスカー・ワオの短く凄まじい人生 / 著:ジュノ・ディアス 訳:都甲幸治 久保尚美】 本って何か読みたいんだけど何を読んで良いかわからない時がありますよね。 もちろん古典とかあたれば良いんですけどそこまで時間とか体力ないしなあ……ってことも。 そんな時に僕が参考にしているのが、米アマゾン選定「一生のうちに読むべき100冊」 ■Amazon.com:100 Books to Read in a Lifetime 検索するとリストを邦訳しているブログとか色々見つけられるかと(笑) このリストから何冊か読んでいますが、まあアメリカ向けな印象もありますが、大きくハズレを引いたことはなくおススメできると思います。 成長と共に読めるためなのか、全ての年代ごとにバランス良くまとめられてる感じ。 さて、今回ご紹介するのはそのリストで見つけた『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』著:ジュノ・ディアス 訳:都甲幸治/久保尚美 2011年新潮社発行、です! 純文学なんですけど、出版当時その新しいスタイルに米文学界に衝撃が走った一冊みたいです。 もともとの原文が英語とスペイン語ごちゃ混ぜのスパングリッシュを多用して書かれており、また歴史的な独裁政権の描写とともにマジックリアリズムとアメコミやアニメ、SF、ファンタジーなどサブカルネタが大量投入されています。なんじゃそれって感じですよね(笑) でもその新しさが評価されてなのかピュリッツァー賞と全米批評家協会賞のダブル受賞してます。 著者のジュノ・ディアスはドミニカ出身、6歳でアメリカに移住してきたらしく、スパングリッシュの多用もそんな移民としてのアイデンティティの表現のひとつなのかな。作中にも著者的な人物が登場してます。 主人公オスカーはラテン的プレイボーイなドミニカの家系に生まれるも、モテたのは幼少期の一瞬だけで太めコミュ障なナード青年に育ってしまう。 アメリカの強烈なスクールカーストの底辺で虐げられつつも不器用に恋愛を繰り返す姿はもどかしいやら切ないやら。 そして姉や母、祖母の物語も語られ、舞台はアメリカとドミニカを往復し、苦難の歴史が交錯する。 セックス&バイオレンスと怒涛の展開で予想外にヘヴィーな話でした。 ラテン・アメリカ文学といえばガルシア・マルケスの『百年の孤独』ですが、それを踏襲するように本作でもマジックリアリズムが出てきて、それをマーベル作品やSF、ファンタジーのキャラクターなどを使った比喩によりイメージを上書きするような感覚なんですよね。 これ、凄く面白い読書体験だなあと思いました。 それを助けるかのように翻訳にあたっての訳注も多く、深く没頭し理解できるようになっています。 かなり細かく訳注ついてるので、翻訳チームは本当に大変だったろうなあと。 そのぶん、ちょっと読みにくくはあるんですけどね(笑) 日本のコンテンツもいくつか出てきて、特に『AKIRA』はお気に入りみたいです。 オスカーの友人が語る「オスカーとの関係ではおれは金田のほうだと思ってきたが、今や鉄雄だった」という引用とかめっちゃわかる!と思ってしまいました。 また独裁者トルヒーヨによる圧政の悲劇も大きなテーマであり、これに対する著者による注釈もボリュームたっぷり。 自分、お恥ずかしいことですがドミニカが30年ものあいだ独裁政権下にあったなんて知らなくてちょっと勉強になりました。 っていうかドミニカって野球が強そうなイメージしかなかったわ(笑) その独裁っぷりがあまりに異様なので、ファンタジーやSFの力を借りて表現せざるを得なかったと著者は語っていて、これまためちゃくちゃ効いていて、トルヒーヨを『ロード・オブ・ザ・リング』の冥王サウロンやDCコミックのヴィラン、ダークサイドに例えられると、なるほどわかりやすい!と。 さっぱりな人にはさっぱりだろうけど……(笑) いやでも、やっぱり独裁とか長期政権って本当に良くないですね。 つい最近の世界的な情勢のアレもそうだと思うんですが、間違った判断をしてしまったら早期軌道修正できるようにしないと駄目ですわ。 閑話休題、そうなると読者は主人公オスカーにヒーロー像を求めてしまいますが、最後は純文学的にめちゃくちゃヒーロー。ちょっと泣けちゃいます。 どんな状況にあっても、頑固と思えるほど自分を突き通す生き様に感銘を受けました。 オタクってよく考えれば、人から白い目で見られようが自分の好きなものを突き通している人ばかりなんですよね。 尊敬されこそすれ、疎ましがられる筋合いは全然ないと(笑) というわけで『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』なかなか凄まじい一冊なのですが、ただ万人受けする本ではないのかなあとも思います(笑) 難しくはないんですが、出てくる単語に馴染みがないと、ちょっと読みにくいかな(笑) 多重構造的な感じもあるし、少し上級者向けかも知れない……。 自分もまた読み直したら更なる面白さを発見できる気がしてます。 ちょっと趣向を変えたものを読みたいかた、アメコミやロールプレイングゲームとか好きでナード連中に親近感を覚えるかた、中南米に興味のあるかたにはとてもおススメです!! -今回のゲスト- どうも、シチクです。 今回は俺(シチク)じゃなくゲストにお願いしました。 結構忙しくて記事出来なかったので丸投げしたのが本音だけど。 彼がどんな文章書くのか見てみたいのも少しあって。最近ラジオにも出てた人です。 分かりましたか?UMAじゃないです。 今回のゲストはこいつだ!!!!! 初めまして。札幌でビバ!サドンナ!!とおばけトンネルのドラムを叩いているイトウです。 最近ハマっていることは漫画アプリで推しの漫画を探したり、漫画喫茶でひたすら漫画を読むこと。 今回紹介するのは和山やまさん作の【女の園の星】です。 このマンガがすごい!のオンナ編で2021年は第1位、今年は5位を獲っている作品で現在2巻まで出ています。 ストーリーは女子校教師の星先生の日常を面白く描いていて、他にも生徒数名、小林先生(私服はナンバーガールのTシャツ)がメインで話が進んでいく。 佐々木倫子さんの影響を色濃く受けている絵柄に、シュールなギャグがギンギラギンに輝いて、文末に絵文字を乗せたり、吹き出しの外の台詞フォントがゆるくて可愛いのが特徴的。 どの話も好きなんですが好きな話をいくつか紹介します。 1巻最初の話で学級日誌の備考欄で突然始まる絵文字しりとり。 最初は「スマホ」と誰がみてもすぐにわかるけど、次の絵が劇画調に描かれた生気のない男性で、最後は「イカ」で終わる。 「ホ」で始まって「イ」で終わるこのしりとりはなんだと考える話なんですが、先生がほっかほっか亭や布袋や本当の布袋と言った、何とも言えないシュールな解答に読んでいる自分はクスッと笑いながら、結局この答えは………女の園の星の特設サイトで試し読み出来るので、気になる方がいましたら是非読んでみてください。 ○1巻3話目の漫画家志望の描く漫画が様々な要素を詰め込み過ぎてカオスになる話が1巻の中でいちばんシュールですね。 小林先生が椅子に座るときに勢いつけ過ぎてぶつかったり、星先生の大学生時代も少しだけ出てくるのですが、その回想シーンも好き。 ○次に好きな話が1巻4話目。 普段感情を表に出さない星先生が小林先生と居酒屋で飲んで可愛くなったり謝り魔になる話。 この2人の会話もほんわかして好きなんですが、小林先生が割とフリーダムで良き…… ○2巻8話目の星先生が結婚しているのを知った生徒たちが記者ばりの質問責めをする話も好き。この話は生徒の会話のキャッチボールがキレ良くて面白い。 ○2巻9話目の小林先生がタペストリーを作る話。 バレーボール部の顧問の小林先生がバレーボール部の生徒の保護者に「記念品にタペストリーを作りたいんだけどデザインを小林先生つくってくれませんか?」と頼まれて引き受ける。 苦手な仕事を頼まれたからか、それでいつもよりテンションダダ下がりでやさぐれている小林先生。 引き受けた手前、断れるはずも無く、ボケながらもタペストリーのデザインを作るのであっか。 無事、完成したタペストリーが宇宙の背景にバボちゃんのパチモンみたいなキャラと記念写真と「恐れ入ります。」と書いてあるシュールさが好き。 ギャグ漫画も好んで読みますが、この作品は会話のキレの良さとゆるい空気感のギャップに萌えて、読み終わった後はほっこりします。 ちなみにこの漫画函館にある快活クラブで読めるので、気になる方がいましたら是非読んでみてください。 2巻まで出ているので割と短い時間で手軽に読めるのも良いと思います。 ■ビバ!サドンナ!!
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珍文感文 #31/31/2022 ■森下 夢の島の二階で、ギターを弾きながら うたをうたってます。 頭がおかしいと思われがちですが、 人情家。 活字中毒見習い。純文学フェチ。 ライトノベルフェチ。 読みもしない大量の本に囲まれた 生活を亀とたぬきと共に送る。 【たこ八郎物語】 笹倉明 著 今回、紹介したいと思ったのは こちら。 昭和のチャンプ。 チャンピオン。それが、我らの たこ八郎。 きみは、たこ八郎を知っているか。 たこ八郎がいた、とは友川かずきの 曲目にあることでも、一部の フリークの間では有名です。 (友川かずきとたこ八郎は 付き合った時間こそ短いが、 友人としてとても濃い時間を 過ごした。友川かずきに 関しては気になった人は 遠慮なく掘ってください。 画家であり、シンガーであり、 競艇狂いであり、詩人であり、 文筆家である…ほかにも、 肩書きがあるかもしれないが…。 本人も素晴らしいアーティスト だけれど、友川かずきは様々な 分野の優れたアーティストを 発掘した部分についても 功績があると思う。マジで。 現代の澁澤龍彦的なポジション だと勝手に考えていた。 本人はそんなつもりは 全くないと思うが) 曲になっちゃうような、そんな男 なのだ。うまく言えないが、 曲になっちゃうような男は、 確実にネジが何本かは、 外れている奴しか、 いないです。 そんな男を曲にする男も 同様に飛んだとこがあるですね。 なんでもない人なんです。 なんでもない人生を、 送っていた はずの人々の、 私生活。 たこ八郎は、ボクサーでした。 プロボクサーとして、 活躍した人の成長譚は 数多あれど、このたこ八郎は ちょっとほかの 実録物とは、一線を 画しています。 そのアウトサイダーな 目線は、正攻法で闘える ファイターとは 交わることはないでしょう。 実際、交わることはなかった、 と思います。 たこ八郎は、幼い頃の ちょっとした喧嘩により 左目の視力をほぼ失います。 (泥が目に入ったらしい) そう、隻眼のボクサーの一代記。 それが、たこ八郎なのです。 片目が見えない事を隠して、 プロボクサーになる為のプロテストを 受け、持ち前の器用さで 隠しおおせて、見事に合格を 勝ち取ります。 この時点で、時代のゆるさと ドサクサ感から立ち登る血の香りに むせ返りそうにもなるんですが、 まだまだ。こんなもんじゃない。 この男の一代記は。 八郎は(敬意を表して、八郎と 呼ばせてもらいます) 片目が見えないハンデをハンデと せず、逃げず、隠れず、がーんと ぶっつかるんです。 己の弱さから目を背けず注視する だけではなく、ひたすら弱さと 常に『居た』男。 相手ボクサーからの拳。たぶん、 痛い。いやかなーり痛い痛い痛い、 痛、痛いに決まっている。 ペイン。ペインペイン血血血、 爆ぜる肉、軋む骨、いっそ 殺してくれ。 アホみたいに鍛えまくった、それこそ 鉄みたいな、否、鉄そのものな ナックルががつんがつん、おらおら おらおら、見えない 方から来る来る来る来る。来る来る。 …通常の神経では、確実に 狂うくらいの恐怖です。 こんな文字を打ってる間にも、 拳はびゅんびゅん。 勿論、恐怖心が麻痺したバーサーカー 的なこころを持っている訳では ありません。むしろ八郎は 誰よりも優しいこころを持って いたのです。 試合前には、その恐怖があまりに 強く、一睡もできないで朝を 迎えたことも数知れずあった そうです。 超人ではなく、苦しみ、恐怖を 足の先まで感じながら、余す事なく 怖れを味わい続けて、闘い続けた 男。 懐に突っ込んでいって、殴られまくり ながら、血塗れで相手に食らわせる。 正気の沙汰ではなんとかなる 場面ではないのです。 狂気を携えながら、それでも誰よりも 正気を保ち続けた男。 わたしは、正直言って格闘技には 興味はありません。 でも、たこ八郎は別です。 彼は、狂気の原っぱでたった一人で 闘い続けた、とんでもない男 なのです。 そんな、たこ八郎の人生を描いた 記録、ドキュメントなんがこれ。 なんです。 図書館にありますし、amazonにも あります。孤独と闘い続けた男の 人生の記録を、あなたの人生に加えてください。 ■マサカツ THE END ROLLS、難民ズでギター弾いたり歌ったりしてます。 ボンクラ青春小説が好物。 永遠のにわかSFファン。 自己啓発本は合法ドラッグ。用法用量を守って正しく楽しみましょう。 【NOFX The Hepatitis Bathtub and Other Stories / 著:NOFX with Jeff Alulis 訳:志水亮】 そろそろ小説の紹介でもしようと思っていたんですけど、またまたノンフィクション。 今回も「事実は小説よりも奇なり」を地で行くクッソ面白い一冊です! はい、みんな大好きNOFXの自伝ですね! 2017年 DU BOOKS ディスクユニオン発行です。 これ読んだことあるひと結構いるんじゃないかなー ずっと気になっていたんですけど、定価2500円+税って高けえなと思って読めてなかったんですよね 笑 なんとなく検索したら古本でお安く出てたので注文しました! 届いてみたら天の部分が盛大に日に焼けてて、お安い理由はこれか……と。 っていうか、売上スリップが挟まっていた所だけ白く残っているし、誰も読んでいないだろこれ 笑 さて早速ページをめくって、めちゃくちゃ笑いました。 『初めて小便を飲んだのは』 こんな文を太文字強調して始まる自伝なんてほかに考えられない。 最高すぎる。 『※注)この本では以下のような言葉がよく使われます。ご注意ください。「クソ野郎」「ちんぽ」「ゲロ」「ウンコ」「オナラ」「アナル」「乳首」「セックス」「LSD」「ヘロイン」「コカイン」「SM」… and more !!』 と帯に書いてあるだけありますね。 さすがNOFX。 それでも冒頭の掴みが飲尿とシングルマザーとの母乳プレイとは恐れ入る……。 メンバーそれぞれが幼少期から音楽との出会い、バンド結成等々を時系列で語っていくスタイルで進んでいきます。 まー、出てくるエピソードがNOFXらしく本当バカばっか。 特にスメリーのターンがクソすぎて好き。 よくあるジャンキー話でもNOFXというバンドが軸にあるからめちゃくちゃ面白いんですよね。 なんか、本文中にも出てくるけど『バスケットボール・ダイアリーズ』とかビートニク的なものを感じてしまいました。 ボンクラ青春ストーリー大好きなオイラには刺さりまくり。 『トレインスポッティング』や『ブレイキングバッド』とか見ている感じにも近いかも。 あと赤裸々に綴っている性生活なんかもバタイユ『眼球譚』みたいなエロティシズムに通じなくもない……とは良く言い過ぎかもしれない 笑 またUSパンクらしくバイオレンスに満ちていて、ドキュメンタリー作品『アメリカン・ハードコア』で語られていたことを思い出しました。 ガチで暴動も多かったみたいですね……。 「お客さん4人で、その4人も一曲目で帰っちゃう」などバンド伝記あるあるな初期を経て、徐々に人気が出てくるバンドサクセスストーリーは読んでいて普通にワクワクします。 でもどこか不吉な影がつきまとう……って、まあドラッグや酒なんですけど 笑 ツアー中、初期ギターのデイヴが酔っぱらって湖に飛び込み、切り株にぶつかって顔面の半分を縫う大怪我。 直後、ヨーロッパツアーのため乗り込んだ飛行機で…… 『「ご搭乗の皆様、本日、飛行機に初めてお乗りになるお客様がいらっしゃいます。座席番号16Fにお座りのデイヴ・カシラスさんを私たちは歓迎いたします!」とアナウンスされ、乗客が振り返ると、そこにはよだれを垂らして酔っぱらったパンクロッカーがいて、100針の傷からは血がにじみ、まるで殺人鬼に襲われたばかりの犠牲者のようだった。デイヴは初めての飛行機を怖がっていたが、デイヴ以外の乗客全員が彼に抱いた恐怖はそれ以上だったかもしれない』とか写真つきで記述されていてクッソ笑う。 ただ、笑えない話もワリとあって。 人もバンバン死ぬし。 本書でメンバーにも初めて明かすエピソードとか。 (特にメルヴィン! メルヴィンの話は重っ) そういったシリアスさが本書に深みを出してて、さらに引き込まれるんですよね。 NOFXの音楽性にも通じるものがあります。 また、FUGAZIが使うバンにビールをぶちまけまくっただとか、マイクがバンドやめてOPIVのローディーになりかけたとか、グリーンデイのビリージョーの伏線回収とか、パンク好きなら読んでいてぶちあがるエピソードが多々。 メジャー・レコード会社を蹴ったり、PUNK VOTERでの政治活動などゴリゴリパンクな姿勢もやっぱり胸熱ですね。 そして家族への思いを語っているパートでは、まさかの涙目になる展開……。 直後、マイクの真性SMな性的趣向を読まされ真顔に戻ります 笑 というわけでまとめますと、 ①世界一アホなバンド自伝は意外にも文学的だった! ②ユニークでありながらシリアスでもあり音楽性に通じる所がある!! ③とにかくめちゃくちゃ面白くてNOFXファンはもとより全パンクファン、全音楽ファン必読!!! ちなみに表紙で謳っているような「バンド成功指南本」では全然ないように思う 笑 以上NOFX自伝の紹介でした! Kindleで試し読みも出来るようなので気になったら是非!! ■シチク 「2022ってなんかしっくりこないし嫌だな」と感じてます。 【梶井基次郎/檸檬】 梶井基次郎の代表作だね。読み終わって調べてみたけど、アメリカ、スペイン、中国、フランス、ドイツでも翻訳版が刊行されているみたい、これは知らなかった。近代文学でも評価が高い作品だから噂には聞いてたけど、最近まであえて読まなかった。意地でも見ないようにしてた。まず俺頭悪いし理解できないかなと思ってたから。 読んでみた。素晴らしい作品だった。元気だった時代の「私」と生活が蝕まれた「私」の対比が、どんどん俺を共感させ引き込んでいった。檸檬という本は見る人が大体”奇怪なもの”だと揶揄しがちだけど全然違う印象だった。 殆どの人は心にひっそり飼っていたりする”得体の知れない不吉な塊”。それが爆発してる人も数少なくいると思うんだ。俺はおもいっきり爆発してて、今はそれを飼い慣らしていると理解してる。飼いならせてない人にこそ読んでほしいかなと俺は感じた。 読めば読むほどに心に潤いが出てくる作品だと思っている。純文学という枠から飛び出た知性に感服するしかない。 なぜ梶井基次郎はこんな作品を書いたのか背景を調べたりした。 彼は病気に苦しめられた人だったのは有名だよね。20歳くらいの時に肋膜炎、さらに結核になってしまい31歳の若さで肺結核で亡くなる。理科甲類でエンジニアを目指したり、夏目漱石全集を買って猛烈に文学を志すようになったり、また同時にひどく退廃的な方向に落ちていって、酔っ払った勢いで童貞を捨てるために女を買って、「純粋なものがわからなくなった」とか「堕落」とか言い出すようになったらしい。 (他にも色々ウケる話あるから調べたら面白い) その後も破天荒は続き、女を買い、酒は飲みまくり、甘栗屋の鍋に牛肉を投げ込んだり、中華蕎麦屋の屋台をひっくり返し、借金の重なった下宿から逃亡したり、自殺を企てたり、ケンカしたり、警察に捕まったときには犬の鳴きまねをしたり、ビール瓶で殴られたりで...もう壮絶なエピソードばかりだ。そんな彼だからこそ自らの死を感じた時に人生の繊細さに気づけて書けたのかもしれない。 中原中也の友人、小林秀雄も「これは言うまでもなく近代知識人の頽廃、或いは衰弱の表現であるが(尤も今日頽廃或いは衰弱の苦い味をなめた事のない似非知的作家の充満を、私は一層頽廃或いは衰弱的現象であると考えている)、この小説の味わいには何等頽廃衰弱を思わせるものがない。切迫した心情が童話の様な生々とした風味をたたえている。退廃に通有する孤児もない。衰弱の陥り易い虚飾もない。飽くまでも自然であり平常である。読者はこの小説で『檸檬』の発見を語られ、作者が古くからもっていた『檸檬』を感ずる、或いは作者がいつまでも失うまいと思われる古蔵ならない『檸檬』を感ずる。」と評してる。 彼の美しき知性が答えを知らない他の心に潤いを与える一冊だ。内容はとてもみずみずしい。檸檬のように。 途方もなく鬱屈してる人にも、きっと届く素晴らしい作品。読みやすいので是非。 今回は短め。また来月よろしく。
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珍文感文 #212/13/2021 ■森下 夢の島の二階で、ギターを弾きながら うたをうたってます。 頭がおかしいと思われがちですが、 人情家。 活字中毒見習い。純文学フェチ。 ライトノベルフェチ。 読みもしない大量の本に囲まれた 生活を亀とたぬきと共に送る。 【告白】 町田康 著 前回に引き続いて、紹介するこちら。 なんの繋がりもないようで居て、 その実、或るひとつの繋がりによって 第一回と第二回が繋がりをみせて います。 その繋ぐ線を皆さんにだけ、 こっそり、お伝えします。 ズバリ…芥川賞作家です。 またかよ、馬鹿のひとつ覚えやない かい〜…すでにネタ切れかい〜 と声が聞こえてくる気持ちが しますが、 私は決して芥川賞作家フリーク な訳では御座いません。 むしろ、あんまりこの2人をおいては 積極的には、接種しておりません。 (嘘をつきました。吉村萬壱、 村田沙耶香、中村文則…いっぱい 居ますね。エグいのが。こちらは、 また別項で紹介しましょう。) 町田康とゆう作家を紹介するのは なかなか難しいとゆうか、ややこしい 面があるので、掘るのはそれぞれに お任せするとしまして、簡単に だけ紹介するとしますと、 こちらの作家さん、またの顔を パンク歌手というアナザーフェイス をお持ちになっておられます。 厳密に言いますと、二足の草鞋で 活躍している、とか生易しいタイプの 方ではありません。 どちらも、似ているものが思いつかないくらい、オリジナリティに満ちた もので、まさしく『町田節』としか 例えようのないものになっています。 一見、思いつきでつらつらと書き連ねたような印象を持ってしまうくらいには、ラフな素描めいた感触を持っている町田康の文体ですが、読み進める と、物凄い推敲を重ねた上での、 この文節しか無いという境地に至った 上での文体であることが、すぐに わかります。 しかも、恐ろしいことに、町田節は するするとコシのある饂飩(うどん)のように、いつのまにか飲み込んで しまっているのです。 今、わたしは町田節を説明する際に、 『饂飩(うどん)』という単語を 用いました。何故か。 町田作品の中には、この饂飩が 多く登場するのです。きっと、 町田康も、饂飩が好きなのでしょう。 (事実、町田康のユニットのCD 『犬とチャーハンのすきま』にも、『饂飩の世界』という作品が 収録されています。) さて、今回、紹介する『告白』。 谷崎潤一郎賞を受賞している今作は 500頁超えの累生の大傑作と なっております。 私なんぞが、紹介する必要がないくらいの、物凄い作品です。 と、何故、『物凄い作品』なのかが 抜けていましたね。それを今から 説明しましょう。 こちら、まず縦軸としてこの世界を 構成しているのが『河内十人斬り』 と後に呼ばれる連続殺人事件。 が、基となっております。 1.事件 1893年の大阪府南東部の金剛山麓 の赤阪村字水分で、金銭・交際が トラブルの基になり、男女含めた 十人の村人が斬り殺された事件、 とあります、リアル事件ですね。 現在では大阪における 伝統芸能『河内音頭』として、 代表的な演目となっております。 その事件を後に起こすことになる 『熊太郎』が、この作品の主人公と なります。 この熊太郎が、 どう見ても鈍臭くて、 人を殺すどころか、傷つけることすら 出来なそうな人間なんですね。 この作品は、ひたすら冷淡ともいえる 徹底した第三者の視点で、事件が 起こるまでの出来事を時系列順に 語っていく作りになっています。 2.思弁 サブタイトルに冠された『思弁』 という、これまた馴染みのない 言葉ですが、この『思弁』が『告白』 において、とても重要なファクター となります。 熊太郎が殺人を起こすまでの、 止めどない思考の流れが、 未編集のまま、リズミカルな文体で するする、するする、飛び出してくるのは、マジで圧巻。 改行すらされないまま、ひたすら 『この時、オレはこう思った。 であるからして、そのあと、 こうなるだろう』といった感じの 文章が、ずっとずーっと、マジで ずーっと、続きます。 わたしは、かなりの衝撃を、 覚えましたね。ええ。 あーマジか、町田康。 半端ないわ、いやいや イカれてらっしゃる。 と感じたのを 今も、昨日のことのように ハッキリ覚えています。 題材が題材なのに、何故か、泣けてくるのも、『告白』のポイントかと 思います。熊太郎、そして後に道中を 共にすることになる弥五郎。 二人の人間関係における、狂おしいほどの不器用さが、リアルすぎて ヒリヒリ、ヒリヒリ、皮膚をがさがさ 傷つけられる感じが、ずっと 続きます。『ああ、私も、熊太郎や。いや、熊太郎そのものや。』 と、感じるシーンが、誰しもひとつ はあるはず。わたしは、クソほど 当てはまりました。 息苦しさが、切迫感が、紙の上から 立ち上ってくるようです。 その生々しい肌感覚は、ただただ 圧倒的に滅茶滅茶リアル。 なのに、笑える。おもろうて、やがて 悲しき。を地で行く、恐ろしーほど 面白い、悲しい話、それが 町田康 作『告白』となって おります。 みなさんも、苦しみと怨念を ポップに撒き散らす、こちらの 大作に挑んでみませんか。 わたしは、十年に一度の大傑作だと 思います。 ■マサカツ THE END ROLLS、難民ズでギター弾いたり歌ったりしてます。 ボンクラ青春小説が好物。 永遠のにわかSFファン。 自己啓発本は合法ドラッグ。用法用量を守って正しく楽しみましょう。 【コーヒーの科学「おいしさ」はどこで生まれるのか / 旦部幸博】 【珈琲の世界史 / 旦部幸博】 どうも、この「珍文感文」企画の言い出しっぺのクセに一番筆が遅い僕です、ほんとスミマセン。 今回は二冊ご紹介します! といっても同じ著者が同じ題材で書いた本なのでシリーズものみたいな感じですね。 著者の旦部幸博氏の略歴は「京都大学院薬学研究科終了後、博士課程在籍中に滋賀医科大学助手へ。現在同学内講師。専門はがんに関する遺伝子学、微生物学」というゴリゴリの理系インテリなかた。 そんな著者が何の気なしに淹れてみた一杯からコーヒーにはまり、気付けば古い専門書から学術論文まで文献1000本超を読み込むほどになっていたとか。 こういう狂った熱量を持っている人、ほんと大好き。 さて、まずは『コーヒーの科学「おいしさ」はどこで生まれるのか』、講談社ブルーバックスから2016年発行。 ブルーバックスとは、「科学をあなたのポケットに」をキャッチコピーにした自然科学や科学知識を一般読者向けに解説・啓蒙している新書シリーズ。 火星人マークめっちゃ好き。 コーヒーってなんで美味しく感じるのか、よく考えたら不思議ですよね。 苦いものにわざわざ砂糖いれて甘くして飲むとか謎行動すぎる。 なんか酸っぱかったりするし。 その疑問がすっきり解ける一冊です。 文章はわかりやすくて、なるほどと思うことも多くとても面白いんですが、読むの結構大変。 コーヒーノキの植物学的知識から始まって、コーヒーの歴史、「おいしさ」の定義、人体のメカニズム……。 自分、理系に弱いもんでコーヒーの成分の化学構造式とか見てもさっっっっっぱり分からん。 そもそも化学構造式とか出てくる時点で他のコーヒー本と一線を画している狂いっぷりヤバい。 また焙煎や抽出時になにが起きているかも化学的に分析して記述してます。 ここ、目安で良いので具体的に何分蒸らすとかあったら嬉しかったなーと思います。 一概に言えないことなんで難しいんでしょうけど。 最終章「コーヒーと健康」もすごく良い。 よく「コーヒーを沢山飲む人は〇〇病になりにくい」とか逆に「コーヒーを飲むと〇〇になる」とか書いてあったりするじゃないですか。 実際どうなのか、しっかりエビデンスに基づいて書かれてます。 「たとえトータルで良い面が多くても、アピールは割りに合わない」って話しには首がもげる程うなずいてしまいました。 「コーヒーがAを予防する」というデーターがあったとして、コーヒーのおかげでAにならずに済んだ人が沢山いても、健康な人がそれに気付くって難しい。 一方、Aになった人が「コーヒー飲んでたのにAになったじゃないか」と考えてしまうのは仕方がない。 コーヒーに限らず、それ当てはまること世の中にめっちゃくちゃありますよね。 コーヒーの知識を化学的に網羅しているので、手元において何度も読み直したいと思う良書です。 でも本当ハードコア。 これを読んだ後に、オシャレなカフェとか器具の写真いっぱいなコーヒー本を読むと、まるで豆をケチったかのように薄く感じちゃうかも。 二冊目は『珈琲の世界史』講談社現代新書2017年発行。 『コーヒーの化学』が理系コーヒー入門書なら、こちらは文系コーヒー入門書です。 読み物としてはこちらのほうが面白かったかなー 世界におけるコーヒーの通史が一気に読めちゃいます。 なんか、世界ではじめてコーヒー飲んだ人ってすごくないすか。 わざわざコーヒーチェリーの実を剥いで種を煎って、それをすり潰してお湯をかけて出てきた黒い液体を飲むとか、良くできたな……。 って考えてたんですけど、最初っからそんな飲み方はしてないんすね。 コーヒーはじめて物語は ①カルディという名のヤギ飼いの少年が、ヤギが赤い実を食べて騒いでいるのを見て自分も食べてみたら楽しくなってヤギと一緒に飛び跳ねてヤバかった説 (コーヒーショップのカルディはここからとったぽい) ②シェーク・オマールという修行僧が無実の罪で街を追放され、あまりの空腹に赤い木の実を食べたら疲労が回復してすげえってなった説 などあって、でもこれは民間伝承みたいなもので信憑性はないとか。 とにかく、最初はコーヒーノキの木の実を食べてたんすね。 んで実際にはどんなもんだったのか、どうやって飲まれるようになったのか、そしてそれがどのように広まっていったのかってのが、宗教や地理的、政治的背景を伴いながら詳しく書かれてます。 コーヒーは貴重な輸出作物で厳重に保護されていたので、その伝播は盗みの連続だったなど、本筋も面白いんですが、まつわるエピソードも興味深いものが多い。 エチオピアの司祭が異教徒に捕らえられ、改宗を迫られて拒否し続けた結果、割礼という辱めを受けて解放、それに激怒した皇帝が攻め入って雪辱を果たしたとか。 寄ってたかってチ〇コの皮を遊び半分で切られたら、そりゃ戦争にもなりますわ。 また、コーヒー禁止令を布告したスウェーデン国王が有害論を証明しようと、双子の死刑囚の片方に毎日大量のコーヒーを、もう片方に紅茶を飲ませ続けて、コーヒー側を早死にさせようとしたとか。 そのズッコケな結果は是非本文でご確認くださいませ。 近代の世界大戦下でのコーヒーや、現代のスタバの隆盛やサードウェーブとはなんぞやって話しまでしっかり押さえている後半は、より身近に感じ最後まで面白く読めます。 というわけで、この二冊でコーヒーにまつわる知的冒険はたっぷり堪能できるかなと思います! ちなみに、なんで今回コーヒーの本を読んでたのかというと、僕がカフェをやるからです(笑) 紹介した本も店内に持っていきたいと思っていますので、コーヒーをお供にゆっくりお読みいただければなと!!(ゴリゴリの宣伝でほんとスミマセン笑) ■シチク 毎年12月に餅の美味さに感動する。 【少女地獄 / 夢野久作】
ドグラマグラをまだ見たことがない。 そんな俺が最初に”夢野久作”で見た作品が”少女地獄”だ。 本の内容にいく前に突然自分語りを始めてしまうが、少女地獄に纏る思い出話をさせてもらう。 当時俺は8年程付き合った彼女と最悪な別れ方をした後だった。読書からは遠ざかっていた。離れていた理由はないが8年くらいは非読書家だったと思う。俺は別れた後になんとなく読書生活を再開した。久々の俺の読書生活は水を得た某状態で気づけば本のタワーが部屋にいくつか出来てた。そんな二宮○次郎状態な時、運命的に出会ってしまった女性が居た。その子とは読書を通じて出会った。そしてそのきっかけとなった本が【少女地獄】だった。俺たちはすごい早さで親交を深めていった.... 俺の自分語りの途中だけど作品の話に戻す。 少女地獄の初版は4つの物語が収録されている。初版じゃない方はどうやら3つらしい、そっちも読みたい。 今回はその中の表題作でもある「少女地獄~何んでも無い~」のお話をしようと思う。 姫草ユリ子という女性が自殺したことを告げる手紙から物語は始まる。 臼杵利平という医者の務める病院にひょんな事から姫草ユリ子が務めることになります。 彼女は非常に優秀・清らか・健気。看護婦としても技術が素晴らしく全てを兼ね備えてる。 そのユリ子の姿に臼杵や患者からの評判も良く、病院も瞬く間に人気になる。 そんな非の打ち所がない姫草ユリ子には秘密があるわけだ。その秘密というのは「虚言」だ。 どんどん明かされていくユリ子の謎。なぜ彼女は嘘をつくのか。そして彼女が死んだ理由とは何だったのか。 読み進める度に、彼女の吐き散らかした虚構をどこか遠い世界の話ではない感覚に見舞われる人もいると思う。そして最後にあなたもこの答えに至るだろう。 「彼女を生かしたのは空想です。彼女を殺したのも空想です。ただそれだけです。」と.... 全てはタイトル通り「何でも無い」のだ。みんなが日々生き抜くこともそうだ。 この作品を通してそれが理解出来たら素敵だ。他のお話も素晴らしいので是非。 夢野久作の物語は湿度マックスで”じめっと”しているが心にくるものは真っ当な作家の魂だ。 文体の綺麗さ、女性しか表しきれないような美しさ、無駄に問いかけるわけでもなく、自然と引きずり込まれ、気づくと時計の針は次の日へ駆け抜けている。また俺は「やられた~」となる。 話はまた俺のくだらない話に戻るが、恋愛偏差値みたいなものがあるのであれば俺は極めて低い。そんなもんだから”すごい早さで親交を深めていった”俺はその子に告白までいった。恋愛では自分から何か起こすタイプでは無いので確信もあり死ぬほど頑張った。 だがしかし!!!妙な理由でフラレてしまう。話せば長くなるが結果だけ言おう。 その子は俺をフッた2、3ヶ月後に結婚していたって事。そしてその後知人から数々の嘘が暴かれていくわけだ... 何が言いたいかって、その子が好きだった作品がこの「少女地獄」だったわけ。笑えるよ。 「事実は小説より奇なり」とはよくいったもんだ。これは正真正銘、本当の話である。 え??俺もまた嘘をついてるんじゃないかって??
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珍文感文 #111/22/2021 今日から新コーナー【珍文感文(ちんぷんかんぷん)】が始まる。 簡単にいえば「最近何聴いた?」の読書感想バージョンだ。 メンバーは夢の島の二階の森下さん、THE END ROLLS/難民ズのマサカツさん、あともう一人違う人が良かったんだけど最初の方は俺がやっていく。そのうちゲストや新メンバー入れてやれたらいいなぁ。 やりたい人いたら気軽に言ってほしい。みんなでやっていこうぜ!よろしく。 ■森下 『最近、何読んだ?』のコーナー が今週から、 始まりました。 はじめまして、 わたしの名前は、 森下。 『積読で圧死する男』こと、森下雄介とは この俺のことさ。ね、よろしくね、ボーイズ。 アンドガールズ。アンドビート。ビートニク。 積読って、何? 聞いたことないよ… 聴こえてくるよ、 うん、応えるよ。 ええとね、 積読ってゆうのは、 まだ読まれていない、 積み木のように 積み重なった本の、 群体の総称さ。 カッコいいだろ? まだ読まれて ないどころか、 開かれてすら いないんだぜ? みんなの家には、まだ開封されていない本、または まだ読んでいない本は何冊くらいある? 五冊? 可愛いね。 十冊? キュートだね。 …そもそも、 数えられるくらいの 分量のことを 人は積読とは呼ばないのさ。 かっこいいだろう? まるで、積み木みたいに部屋中を圧迫し 続ける文庫本…新書… 角川文庫…ちくま文庫…新潮… なかには、同じ本が混ざってる…ハハ… なんなの、この本…読みもしないくせに… 捨てて…捨ててよ…今すぐ…ね?今、今、今! それがわたしの日常。 要塞みたいだね! って? …ありがとう、僕。 飴をあげよう。 病気なんじゃないかな?って? …そうかもしれないね。 そうさ、さしづめおいらは本の要塞の船長だな。 船長。そうだなあ、 キャプテン泥舟。 そう呼んでくれて構わないよ。 沈んだら沈んだまでさ、それがオイラの泥舟さ… おっと…また話が逸れちまったみたいだな… よいしょっと… 今日、紹介する本の話だったね… 今日の一冊はこちら。 『蠕動で渡れ、汚泥の川を』 西村賢太 著 (ぜんどうでわたれ、おでいのかわを) PASSVOLUMEをご覧の皆様は、 世の中に『私小説』という 分野の読み物が存在 する事を ご存知だろうか。 『私』の『小説』と書いて、 『私小説』。 なにか得体の知れない感じを受けた方、 あなたの直感は 正しい。 その得体の知れなさに 合わせて感じる 違和感、それも おおかた 合っています。 『私小説』。 耳慣れないその分野を説明する 言葉を紐解いてみましょう。 『私小説』を簡単に 説明しますと、 自分の半生を赤裸々に 切り取った文学作品、といった ような事になるかと 思います。 なんか、小綺麗ですね。 『自分の半生を赤裸々に切り取った文学 作品』という文字列 からは、なんとゆうか、小粋なエッセー とか、 美しい私の生活を みなさんにお見せ します、といったようなものを感じる向きもあると思いますが、 否。否否否。 小綺麗なハイクラスな生活を覗き見とは 対極にある、取り扱い注意の文字芸術。 それこそが『私小説』であり、 曝け出しの自爆の文学芸術とも言い換えることが できる、 それは恐ろしい 作品群の名称なの です。 どれくらい恐ろしい かを例を挙げますと、 親類身内の不幸や隠しておきたいような、 所謂『やっちまった』事をネタに小説を 書き続けた結果、 親類縁者から完全に 絶縁されたり (車谷長吉ですね。 この方も私小説家と して業の深い方 です。) あいつに話すとなんでもネタにされちゃう、と 友人から総スカンを 受けたり…と、まあ 『自分の人生を切り売りする空前絶後の リアリスト』、 それが『私小説家』 なのです。 話は逸れてしまいましたが、今回紹介する本の作者である 西村賢太氏を どのような人物である か、肩書きから説明しますと、 ひとことでは難しい…ですが、 まずは芥川賞受賞作家であります。 芥川賞受賞作家!と 聴くと、 なんだか知的! クール!カッコいい!または肩肘張った 如何にもな文士を イメージする向きも あるかと想います。 分かります。 しかし、そのイメージを一旦捨ててください。 西村氏は、およそ一般的にイメージされる小綺麗な小説家とは まるでそぐわない人物なのです。 まず、カッコつけない。 受賞の報があった時は、なにをしようと していましたか? とゆう紋切りな質問に対して 『どうせ落選したと思ったので、これからソープに行こうと思っていました』とサラッと返す無頼っぷり。と思えば、氏の綴る文章はそういった無頼な イメージとはまたまた違い、物凄く硬質なのです。 まるで、磨き抜かれた鉱物のような…古語や見たことないような難しい漢字で描写されていくのですが その描かれるものが、本来なら隠すべき黒歴史的な日々の行いなのです。 西村賢太氏が、作品のテーマとして扱うものはこれまで一貫して います。 そのラインナップに なるのは、次の3つ。 ① 【付き合っている女性 秋恵との喧嘩。】 この秋恵との 喧嘩テーマの話が、 西村作品の7割を構成 しているといっても 過言ではないでし ょう。 西村賢太フリークの 中では、この分野は 『秋恵もの』と呼ばれて親しまれています。 主人公 貫多 (おそらく西村氏が モデル)と秋恵が、 必ず、必ず! …喧嘩します。 それは、100%。 めっちゃ仲良い感じで 始まっても必ず口汚く喧嘩しまくって、 ぐっちゃぐちゃになって、終わります。 喧嘩の理由は毎回様々ですが、 かなりくだらない理由で喧嘩がおっぱじまり ます。 お約束みたいな感じ。金太郎飴的な。 ドリフの金だらいが 頭に落ちてくる感じ ですかね。 やったー、みたいな。 喧嘩のシーンは、 結構生々しくて、 寛太のバイオレンスな性質もあり、リアルで見たら血の気が引く くらい殺伐としてると思うんですが、 西村氏の硬質な文体でドライに描かれることで、びっくりする くらいひたすら滑稽で 悲しくて、 面白いんです。 ② 【人々とのトラブル。関係の終了。】 そのトラブルは主人公 貫多の性格が原因と なっていることが ほとんどです。 どんなに良い人が出てきても、終わります。 うまく行くことがありません。 必ず関係がぶっ壊れてダメになるので、 読者は慣れてくると『いつ暴発するんだ…』 『いつダメになるんだ?』 とゆう、ある種、 約束された崩壊が 近づいてくるのを 楽しみ半分、 はらはら半分で 見守るような読み方になります。 今回、紹介している『蠕動で渡れ、汚泥の川を』 は②の【人々とのトラブル。関係の終了。】 がテーマになっていると言えます。 もし、興味があったら一作ずつ読み比べて みるのも楽しいかもしれません。 これは、秋恵もの、 これはトラブルもの、 といった具合に。 ですが、 読み進めていくうち、段々と『貫多は自分だ』というような感覚にも囚われてきます。 三つ目のテーマは こちら。 ③【氏が敬愛する 藤澤清造氏にまつわる エピソード。】 藤澤清造…この作家も、いわゆる 私小説家の 原点的な作家であり、西村作品において 外せない重要な ファクターと なっています。 西村賢太氏は、 この藤澤清造の “歿後弟子” (本人が逝去した後の弟子)を名乗っており 毎年、清造さんの命日には墓参りをして、 墓を清め、藤澤清造を囲む会を開催したりと、 その度を越した愛は まさしくリアルに 狂気じみてると いえます。 ハンパじゃない。 藤澤清造も、恵まれた人生を送った人では なく、文筆家としても、当時はそれほど 売れた訳ではないようでした。 貧乏生活を送り、 肺病を患い、 酒を飲み、管を巻き、友と縁を切り… 最終的には、 冬の公園で凍死するとゆう壮絶な死に様で 四十三歳の生涯に 幕を降ろします。 その作品は、 病に冒されながら パッとしない 毎日を私小説的に綴っているものです。 生々しくもやり切れない思いが、 これまたドライな 文体によって 客観性を保ちながら淡々と進んで いきます。 痛い毎日のはずが、 何故かめちゃくちゃ ユーモラスに描かれており、サクサク読めちゃうんです、本当。 こわいくらい。 気になった方は、 藤澤清造作品も読んでみてください。 手に入りやすいところでは、 『根津裏権現裏』 (新潮文庫)が あります。 西村氏は、 この藤澤清造の病的なファンであり 熱狂的なコレクター なのですが、その エピソードが細かく 綴られます。 やれ、藤澤清造の手紙を○○万円で オークションで落とした、 やれ、金を作るために本を売り払った、 借金をした… といったように死に物狂いで金を作るシーンなどを、そんなに細かく記述する必要があるのか…?と ゆうくらいに細かく、細かく、描いていきます。 ひとつの目的を遂行 するためなら、 ほかのことは まじでどうでもいい、という潔いくらいの ブッチギリ具合が、 見ていて気持ち いいです。 長くなりましたが… 大別すると、西村氏の描く作品世界の テーマは、この3つ。3つになります。 え?痴話喧嘩、 トラブル? コレクターの マニアックな話? 三面記事みたいな トピックだけで、 それだけで、 本当に、面白く なるの? …なるんです。 びっくりするくらい、面白いんです。 ドライで前時代的な 言葉を多用した硬質な 文体に落とし込むことで、心底くだらなくて 人間臭いどうしようもない日々が リアルな文学作品に、しっかり 昇華されているんです。 もうひとつ、西村作品を語る上で避けて通れないものが、 あります。 「その了見が慊いよ。大きに、慊いよ」 これは或る西村作品の帯の文句なんですが、 この見慣れない りっしんべんの漢字、 ありますね。 なんだこれは。 なんなんだ。 これは「慊い(あきたりない)」 と読みます。 西村作品では、 この「慊い(あきたりない)」という言葉が 死ぬほど出てきます。 ちなみに、意味としては『満足できない』 『やり切れない』 といった意味であり 本来なら、『飽き足りない』と書けば良いところを わざわざ難しい漢字に変換して使うのですが、 可愛らしいですね。 そういう、言葉への 偏愛的な表現が めちゃくちゃ面白い ので、そのへんも チェックしながら読み進めると、さらに 楽しめるかと思います。 日常的にも、「あー慊い。毎日が。」 「お前は慊い奴だなあ」と いったようにがんがん使いたくなること 間違いありません! これで、あなたも 西村作品の登場人物になれる。 なんか西村賢太作品 全体の紹介になって しまいましたが、 この『蠕動で渡れ、汚泥の川を』はまじで理屈抜きで西村賢太を味わえるので、 おすすめです! なぜなら、長編作品だからです。 なんだ、たいしたことないじゃん、人間って みんな似たようなもんだから、 わたしの絶望は誰かの絶望と似てる。 似てるね、じゃあ、 その絶望、笑い飛ばそっか。なんにも変わらんけど。 ガハハハ、ガハハ。ハハ。となること 請け合いです。 …第一弾から飛ばしてしまいましたが、 それだけ西村賢太作品は面白いということだと思います。 また、読んだ本を紹介させてもらえたら と思います。 みなさんにとって、 こころに残る 本は、ありますか? 今回は西村賢太『蠕動で渡れ、汚泥の川を』 でした。 それでは、さよなら、さよなら、さよなら ■マサカツ THE END ROLLS、難民ズでギター弾いたり歌ったりしてます。 ボンクラ青春小説が好物。 永遠のにわかSFファン。 自己啓発本は合法ドラッグ。用法用量を守って正しく楽しみましょう。 【ぼくは日本兵だった 著者:J.B.ハリス】 ガチで最近読んでいた本を紹介します笑 旺文社より1986年に出版された、英国人の父と日本人の母を持つJ.B.ハリス氏の太平洋戦争従軍記。 今期のNHK朝の連続テレビ小説、ラジオ英語講座と共に歩んだ親子三世代を描く「カムカムエブリバディ」。 劇中のラジオ番組「実用英語会話」の英語講師J.B.ハリスを、そのモデルとなった実在の英語講師J.B.ハリスの息子であるロバート・ハリスが演じたことがツイッターで話題になってて、そのJ.B.ハリス氏が書いた本ということで知った一冊です。 (ちなみにロバート・ハリスの著書「エグザイルス」も昔読んで、旅先でギャンブルしたりドラッグを嗜んだりといった自由な生き方に憧れを抱いた覚えがありますね笑) 兵士でもハーフの人だってそりゃ普通にいるだろうけど、どんな扱いなのか、やっぱり好奇の目に晒されたりするのだろうか……と気になりました。 んで、ふと気付いたんですけど、自分の母方の祖父もロシア人と日本人のハーフで戦争に行ってたんですよね。 でも戦争の体験談とかあまり聞いたことが無かった。 通信兵だったから生き残ったとかなんとか……。 そんなこともあり、祖父の話しを聞く代わりじゃないけど、なにか近しいものを感じて買って読んでみました。 そしたらめちゃくちゃ面白いゴリゴリの名作だった笑 本は著者が英字新聞の記者をしていた開戦当日から始まる。 幼少期に遡り、関東大震災に被災したり、アメリカに移住してまた日本に戻ってきたり、父を亡くしたり、その父と同じジャーナリストとなったり、波乱万丈ながら健やかに成長していく様が綴られます。 そして開戦と同時に、ただ外国人だからという理由で憲兵に逮捕。 留置所でチンピラたちと過ごすエピソードがまた秀逸。 獄中記って大体面白いっすよね 笑 外国人収容所に移されあわやイギリスに送還される寸前で釈放されるも、家で待っていたのは召集令状。 日本帝国陸軍東部第六十三部隊に入営。 その後、北支の新郷に送られる。 軍隊での生活は水木しげる作品に出てくる兵隊のビビビッ!みたいな鉄拳制裁があったり、人道的に決して許されないエピソードがあったり、やはり大変なものです。 しかし著者持ち前の性格からか、重すぎる内容になることはなく、笑いあり、涙ありでスルスル読めます。 行軍の際にキンタマは左に寄せたほうが歩きやすいとか、めっちゃためにもなることも笑 終盤にはバチバチ伏線回収があったり、事実は小説より奇なりが満載でとにかく面白い。 英語で書かれたものを翻訳してあるせいか平易でとても読みやすく、またリアリティのある文体にはジャーナリスト魂を感じさせられます。 またあとがきによると、この本の意義は、形の上では日本人でありながら心は英国人で居続けようとした精神の葛藤を書いたことにある、と。 戦時下っていう全体主義そのものみたいな状況で、マイノリティである存在がどのようにしてアイデンティティを守ったのかは、どこか今この現代、最近のこのご時世を生きる我々になにか強く響くものがあると思う。 残念なことにこの本は絶版になっていて、タイミングが悪いと高値でしか購入出来ないので、気になる方は図書館などで探すか、僕に言ってくれれば貸します笑 ■シチク PASSVOLUMEを編集してるおじさん。目立った外傷はない。 【羆嵐 / 吉村昭】 「一発目がこれか」と声が聞こえてきそうだけど。たくさんある小説を見つめて、まあ悩んだよ。 なんか季節的にもそろそろピッタリかな~とか思って、一発目に持ってきました。(お鍋のノリで話して申し訳ない)筆が進みすぎてネタバレしちゃいそうな気持ちを閉じ込めて簡単に書くぜ。 吉村昭の小説は初めてだったんだけど、圧倒的な筆力に心躍り一気読みしてしまった。多分見た人みんな感じると思う。 「三毛別熊事件」が元にされている。多少の脚色があるんだけど、ノンフィクションに近い小説だ。 自然の前で人は無力すぎる事。みんなも人の中での差別・区別というものあるだろうけど、全て容易くぶっ飛ばされてしまう感覚が芽生えると思う。”生きる”という在り方に心打たれっぱなし。極寒と大雪の中で体長2m超・体重380kg超の熊の襲撃に怯えて過ごすんだけど、終始緊張感しかない。そこら辺のホラー映画なんかよりも背筋がゾクゾクする。文字だけで怖くなる。恐怖に満ちすぎて逃げ出したくなる。熊と対峙する孤高の猟師”銀四郎”が登場するんだけど、とにかく冷静で渋い。これが命のやりとりをする男なんだと感じてそこでも震えた。沢山の人の命を貪った獣をたった1人で追い詰める。狙い定める孤高の銃弾....その結果に思わず本を置いたくらいだ。見たこと無い銀四郎の眼光までもが目に浮かぶ。すべてがあまりにも恐ろしく、次のページを手繰るのが重かった。最初見たときは夢にも出てしまった。もう俺すらも被害者になってしまったのだ。これぞ小説だと感じた。 みんなは恐怖心について考えたことはあるか?羆嵐を見ると”人が熟考するのは恐怖心からなのだ”と心底気付かされる。その恐怖の答えを導き出す一冊としても俺は優れていると思う。君は本質的に恐怖と対峙しているか? 最近も札幌や福島町で熊との不幸な事故があった。みなさんも気をつけてほしい。 |